エミネムの

ベガス in 南大阪

映画をつい見てしまう(8mile)。お話はデトロイトの郊外でトレーラハウスに住んでるような母子家庭のくず白人の男の子が、ラップ・コンクールに勝ち抜いてゆくというお話。話の構造はそれほど複雑ではないので、基本的にはエミネムのラップを楽しむというのが正しいのだろうが、ヒアリングができないので、ラップを字幕で読むというお間抜けなことになってしまう。が、まあ中途半端にヒアリングできないから、良くも悪くも詩が音になってしまうので、どうやら韻を踏むのが大事そうだわい、という程度のことはわかった。エミネム演じる主人公のラビットが勤めている自動車工場の前で、昼飯時にケータリング・カーの前で並んで順番を待ってると自然発生的に従業員のおばちゃんとおっちゃん(もちろん黒人)の間でラップ対決が始まるシーンがあったのだが、これってほんとにこんな感じなんだろうか。そうだとするとこりゃ層が厚いというか、なかなか太刀打ちするのは難しかろう。
これは中盤から後半にかけての泣かせどころなのだが、かつてはそれなりに幸せだった中流家庭の庭付きの一軒家、しかしいまはもう誰も住むものはなく放置され荒れ果ててしまったその家なかで、酒を飲んで騒いでいるうちに、こんな空家があるから、レイプ事件があったりするんだ燃やしてしまえということになってじっさい火をつけてしまう。たまたま残されていたその家のかつての主(たしか黒人家族だったような)のスナップ写真につい見入ってしまい逃げ遅れかけたラビットが、なんとか逃げ出せたあと、燃える家を眺めながらヒロイン役の女の子に、おれはむかしこんな家に住みたかったとポツリとつぶやくシーンがあった。
大阪市はいまやたらと一軒家の建売が売られていて、大学の近くにあるむかし繊維関係の工場だった結構広大な跡地がそのまま全部おなじような建売の住宅街になってしまった。これから人口どんどん減っていくんだから建蔽率ギリギリに作るのはやめろよと思うんだが、あれまた一世代たつとどうなるんだろう。ジェントリフィケーションしろよ、と思わぬでもないが、まあそれはともかく。
嘘かほんとか知らないが、前に建築家(都市計画)の人に聞いたのだが、大阪の京阪沿線のあたりは、建蔽率というか密集度合いからいうと、すでにスラムと言って差し支えないということらしいが、どうなんだろう。いつ疫病が発生しても不思議ではないが、そうなっていないのはたぶん健康保険制度があるからだろうと、とも言っていた。たしかに京阪であの辺を眺めているとぎっちりと建物が並んでいるので、そうかもな、とも思う。
まあそんなこともともかく。
なんとなく近未来(というかあるところではすでに現実かな)の大阪だな、と思わぬでもなかったのだが、しかしこれもし大阪だとするとやっぱりラップではなくてお笑いなのだろうなと思い、とすると主演のラビットは誰がやるんだろう。いまなら旬の芸人ということで、さしずめ笑い飯あたりが主演だろうか、しかしあいつらは大卒だし、意外に暴力的だという噂もあったりして中川家ということにしてエチゼンに敬意を表そうか。しかし、年齢の点で問題があってそこが難点なのだが、それさえ目をつぶればメッセンジャー(とくに黒田)がみょうな迫力もあって最高なのだが。どうだろうか。さらにラップ対決を主催し、白人にもかかわらずラビットの才能を認め、なんとかステージに上げようとするフューチャーという黒人の兄貴分役は、これはバッファロー吾郎で決まりだ。ヒロインが難しくて、がつがつした上昇志向を表現できるキャラでないとまずいのだが、関西出身でいいというなら、グラビアアイドルなんてハングリーそうだから佐藤江梨子とかそのへん。黒田を使うなら、適度に擦り切れた感じもあって、南野陽子とかもありかもしれん。あるいは中途半端さが捨てがたいということで羽野あきとか、お笑いのほうがいいなら太平かつみ・さゆりのさゆりも案外いいかもしれない。ぼよよーん。
もちろん監督は井筒和幸だ!(泣笑)
***
思い出したが上で書いた都市計画の話で言うと、日本の住宅地の建坪率というのはヨーロッパでいうと商業地のど真ん中のそれと同じくらいらしい。まあなんとなくそうだろうなあと思う。パリのことしか知らないが市内でも一見するとぎっちり建っているように見えるが、一歩建物の中にはいると建築基準をクリアーするために必ず中庭がある。まああの町は建物の高さを各階ごとに揃えたりしてるから、極端なところもないわけではないのだが。

そういう基準からすると、大阪の京阪沿線は、という話だった。ただ行政的にまずいのでそういうことは言えないというか、そういう都市計画的な観点からの話はなかったことにしているらしい。建築家というかあの業界は行政と結託してるからなあ。

しかし南大阪は(南大阪に限らず、だが)ほんとうに都市計画という観念がない。もう上海ほどのバイタリティもないからよけい陰惨な感じだ。街を歩くということができない。エミネムの映画の中でも、つきあっていた女の子と分かれるために車をあげてしまうととたんに移動に不自由するというエピソードがあるが、じっさいそういう感じ。喫茶店には歩いてゆきたいという妙なこだわりがあるのだけれど、去年Haremができるまでは客が歩いてくるような喫茶店はなかった。ただHaremもお菓子がないのが惜しい。まあ家具と雑貨がメインなのだからしょうがないが。

日本で建築基準が一番厳しかったのは戦前で、地方は緩めてほしかったのだがお上から天下り式に決められていてどうしようもなかったらしい。戦後になって地方自治が拡大してからこういうことになったという。本当かな。本当ならますますやりきれない話だ。

しかしそれは実感があってたとえば大阪の地盤地下と震災の後遺症もあろうが、それだけとも言えないのが神戸の街としての近年のダメダメさかげんだ。(長くなりそうなので続く)