今年のx冊(候補)

  • ロック二冊

ヴィンセンテリ『アバ・ゴールド (ロックの名盤! )』
ブレイディみかこアナキズム・イン・ザ・UK −壊れた英国とパンク保育士奮闘記 』(ele-king books)
この二冊が今年の収穫であることは、多くの人に頷いてもらえると思う。前者はじつは編集の下平尾直(現株式会社共和国)から寄贈いただいたものなので、文字通り宣伝になってしまい、そういうのはなるべく避けたほうがよかろうから、その意味ではあまりよろしくないのであるが、しかしいいものはいい(だいたい送った本人が独立してしまっているから、結果としては商売敵の宣伝になっている)。

後者はまあ言わずと知れただ。だいたいこんなに文章うまい人の本がずっと絶版であったなどということが、おかしいわけで、日本の出版社はいったいどこに目をつけているのであろうか、頭に宇治茶でも湧いているのであろうかと訝しく思っていたら、新しい編集で出版された。慶賀に堪えない。

アバ・ゴールド (ロックの名盤!)

アバ・ゴールド (ロックの名盤!)

ABBAアナキズムというのもわれながらひどい組み合わせなのだが、しかし面白かったものはしょうがない。とはいえABBAはやっぱりヘンなのだ(いい意味で)ということに思いを馳せていただければ、おそらくこの組み合わせがまったく政治的に正しいことも理解していただけると思う。

正直、ABBAを真剣に聴くということはなかなか困難であることは認めざるをえない。たしかに今日ABBAを語ることがあったとしても、どちらかといえば揶揄の対象として語るということが一般的なのだろうと思う(この文章がすでにそうなりかかっているし)。とはいえ、それはこのヴィンセンテリのやり方ではなかった。もちろん彼女自身、ABBAが揶揄の対象であり、そうたらざるをえない存在であるとは分かってはいるので、やはりクスリと笑える文章に事欠くわけではないのだが、そうしたこととはまったく別の水準で、掛け値なし100%真剣なABBAへの愛が、この書物の価値となっている。本来、愛するものを語ることは失敗を運命づけられているはずなのに、この書物は、貴重な例外となっているのだ。(つづく)

  • 新書

原発事故と科学的方法 (岩波科学ライブラリー)

原発事故と科学的方法 (岩波科学ライブラリー)

これはいつか自分の子どもに渡して、パパにはこれは無理だったけれど、こういうことができたひとがいたのだと教えてあげたいと思っている。結果として適切な判断であったが、もしそうでなかったとしてもこの書物の価値は減じないと思う。
ベーシック・インカム入門 (光文社新書)

ベーシック・インカム入門 (光文社新書)

あわせて読みました。そうすると、時代状況の変化と、社会にたいするスタンスの違いの両方がよみ取れます。

  • 専門書その他

隠遁者,野生人,蛮人: 反文明的形象の系譜と近代

隠遁者,野生人,蛮人: 反文明的形象の系譜と近代

今時珍しい外連味に期待を込めて(もちろん外連味「だけ」ではないので。それだけならたくさんいます。両方ある人が珍しいのです)。

  • 映画


大きいロボットが動いて、大怪獣と闘うのがよかった。

ここにアレントを入れたのは、パシフィック・リムだけだと、あまりにアホみたいに見えるとか、あるいは、かえって腐れインテリの韜晦趣味のように思われて恥ずかしいとかいったことではまったくなく、映画についてはしかし映画館でみたのはこの二本だけ(しかもパシフィック・リムをひとりでこっそり見たことは家族には秘密なので、そのことについては強く留意しておきたい)なので、映画という項目を作っても、この二本しか書くことができないということにすぎない。(ただし正確にいうと今年度の戦隊もの仮面ライダーものは見ているが、もうそれが一昨年なのか、一昨昨年なのかわからないのでやめておいた。)
とはいえ、この映画はインテリ向きの理屈っぽい映画といったようなものではなく、じつはなかなかよい娯楽映画であったと思う。
中身にかんして言えば、友達がいのないやつだと言われようと、宇野ちんの解釈は全く首肯できないと言わざるをえない。(つづく)