2011年に記憶に残った本

たくさんのひとが、本を紹介しているのを見て、自分も2011年のベストのようなことをやろうしてみたのだけれど、さっとタイトルが上がらなくて、自分の勉強不足を痛感することになってしまう。読み終えた本はひどく少なく、それに2011年に出た本もほとんどないけれど、去年読んで記憶に残った本をいくつか書いてみる。重要であるにもかかわらず、読んだこと自体忘れてしまった本もきっとあるはずで、その意味では不十分なリストだ。
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自由を生きる―奇妙な家出少年の歩み (ちくま少年図書館 45)

自由を生きる―奇妙な家出少年の歩み (ちくま少年図書館 45)

これはとても面白かった。著者の江口氏はフランスでエコノミストをしながら亡命ギリシア人・・・なんだろう、ジャンル分けするのは難しいけれど、あえて言えば政治哲学の本を書いていた亡命ギリシア人カストリアディスの本の訳者である。それに彼の活動と思想についての本も書いている。
カストリアディスは数奇なといってもいいような人生を送った人だが、訳者の江口氏の生き方も負けずおとらず面白い。敗戦直後の日本の社会の混沌ならでは、ということなのだろう。たしかにある時点では日本の経済成長がこうした人生を可能にした側面は否定できないのだけれど、とはいえ隙間の多い時代だったということのほうが大きいように思う。それはやはりとんでもなく面白かった
木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

なんかを併せ読むと分かってもらえるかもしれない。あるいはまたこんな時代がくるのだろうか。

併せ読むといえば

大山倍達正伝

大山倍達正伝

と併せ読むのもいいかもしれない。

しかし江口さんのこの本は切れているようだ。出版社も見る目がないひとが多くなってしまったようで、面白い本を抱えて死蔵してしまっている。

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去年はやっぱり震災関連でいくつか本を読んだ。久しぶりに自発的に考えたことを文章にしようと思ったせいもある。結果としては私的な研究会や、やや公的な会でしゃべることにもなった。たくさん本を買って読んだけど、まだ全部を読めたわけではない。印象に残ったのは

わりと批判するような感じのことを書いたりしゃべったりしたけど、このエリートパニックという概念はやはり重要な指摘であると思う。
あとクラインのこれは、いろいろ勉強不足なところは多いのだけれど、ジャーナリストらしく、ちゃんと読むと拾い上げるべき論点はいろいろ出している。生意気な学生さんとかがネオリベネオコンで、とかそういうところに引っかかってしまうのは分かるんだけど。
それと関曠野はやっぱりひとを考えさせるところがある。
フクシマ以後 エネルギー・通貨・主権

フクシマ以後 エネルギー・通貨・主権

あと
科学の世紀末―反核・脱原発を生きる思想

科学の世紀末―反核・脱原発を生きる思想

87年に出された本の新装版。出た当時買って読んでいるはずなのだけれど、まったくが記憶がなくなっていた。この87年当時の感覚が2011年3月の時点では、まったく風化してしまっていたということにも驚く。
あとこの辺の問題にネタを振ったつもりだったのだけれど、あんまり突っ込んでもらえなかった。
Before the Deluge: Public Debt, Inequality, and the Intellectual Origins of the French Revolution

Before the Deluge: Public Debt, Inequality, and the Intellectual Origins of the French Revolution

これはテレビのドキュメンタリー。これは洪水の「あと」のニュー・オールリンズ。
When the Levees Broke [DVD] [Import]

When the Levees Broke [DVD] [Import]

このひとの映画はタルイと思うことが多いんだけど、これはどの映画よりもいいんじゃないかな。
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あと少し大阪の町を歩くということを続けている。その関連では
安治川物語―鉄工職人夘之助と明治の大阪 (都市叢書)

安治川物語―鉄工職人夘之助と明治の大阪 (都市叢書)

これは大阪の西側。東側では
異邦人は君ヶ代丸に乗って―朝鮮人街猪飼野の形成史 (1985年) (岩波新書)

異邦人は君ヶ代丸に乗って―朝鮮人街猪飼野の形成史 (1985年) (岩波新書)

大阪ではないけれど、こういう土地の感覚は
パリ南西東北

パリ南西東北

ドアノーの郊外写真集の日本語版があるのは知っていたのだけれど、サンドラールの文章は部分訳なんていう頭の悪いことをしているとは知らなかった。この本は、その全訳。サンドラールはちょうどフランスにいる頃にしゃれた装丁の全集が出始めていて何冊か買った記憶がある。
小説もたくさん読んだはずなんだけど思い出せない。ひとつだけあげれば
その街の今は (新潮文庫)

その街の今は (新潮文庫)

この本では意識して地名をたくさん出していて、土地の顔と記憶を刻もうとしているというのはよく分かった。
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勉強もしなかったわけではないんだけれど、勉強不足なので気恥ずかしい。
労働時間の政治経済学 ?フランスにおけるワークシェアリングの試み?

労働時間の政治経済学 ?フランスにおけるワークシェアリングの試み?

自分自身は度し難い下部構造重視派なのだけれど、とはいえ、ワーク・シェアリングについては、やはり紋切り型の理解しかしてこなかったことがよく分かった。この政策的含意は、有給休暇がそうであったような意味で、社会的に重要なのかもしれないという気もしてきた。メディアもわかりもしない財政の問題とかで中二病的に噴き上がっていないで、こういう労働時間と社会生活というようなことをじっくり追いかければいいのにと思う。
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こうしてあらためて見直すと、なんかひどく雑多で残念な感じだ。