紀州にて

SOP五歳になる。子供用の恐竜の百科事典、それとトミカの病院も買ってもらった。ボキャブラリーが百科事典をベースに増えていっているので、「〜をはるかに超える」といったような言い回しが頻出することに。幼稚園でそういう話をしても、同世代の男子は「ウワーッ、バキーン、ドカーン」といったような擬音語や擬態語が中心なので、先生ぐらいにしか感心してもらえない。なんとなく困難な人生になりそうな感じもするが、しかしこればかりは本人の好きなようにやらせるしかない。
後者は、ミニカーをそこにおいて楽しむ安手のジオラマのようなものだが、いろんな店がモジュール式にくっついて、トミカタウンなる町並みが作れるようになっている怪しからんおもちゃだ。これまでは町の発展の可能性にあまり気がついていなかったようなのだが、さすがに五歳ともなるとそういう可能性に思い至るようになってきた。こちらはコミュニケーションのためのツールとしては申し分ないのだが、2DKの団地サイズでこれをやられると足の踏み場がない。比喩でなく文字通りの意味でそうだ。ただでさえ収納家具が三方から床面積を圧迫しているので、mosaがものを口に入れ出すとけっこうに危ないのが悩みの種。とはいえ年収はまた減りそうなので、どうしましょう?

mosaは人に反応して笑うようになった。ジジババをはじめ四六時中いろいろなひとに話しかけられるせいか、紀州に来たらとつぜんアー、ウーと、はっきりと発声するようになった。にっこり笑うと、ますます周囲が喜んで話しかけるから、はっきり相手に反応するようなかたちでにっこりと笑う。これまでは泣く以外の感情表現に乏しかったから、いよいよ人間が一人増えた感じになった。

父親は、SOPの誕生日を祝うためにシャンパンを買ってきた。ふと気がつくとSOPはmayakovと一緒に風呂に入り、mosaともどもすでに寝入っていた。どうやら完全に気が緩んでいる。リラックスできる場所があっていいねとmayakov。

人口の減少に加え中心が国道沿いに移っていったせいで、町には空き地が増えていた。酔っぱらいの声も、カラオケの音も聞こえない。焼き肉やも引っ越したから、朝方に家の周囲を歩いても、飲食店街から出るいろいろなものの複合した独特のにおいも漂ってはこない。飲み屋やなどが立て込んだと商店街に挟まれた町一番のにぎやかな通りだったのだが、いまはもう静かな住宅街のようだ。