ちかくの

焼き肉屋にSOPとふたりで夕食を食いに行く。テーブルに座るとSOPは最初に出されるキャベツをいつものように子供用の焼き肉のたれに、もう「べったり」とつけて食べ始める。余り感心したことではないが、まあ外で食うときぐらいはと、大目に見ている。そういうぼくも、睡眠不足を顧みず、生小を頼んで喉にしみいる久しぶりのビールを楽しんでいるのだから。昨晩は一度も起きなかったから相変わらずの喉の問題もやや治まりつつあるのだろう。生レバ、塩タン、ツラミ、ハラミ、チャンジャ、白いご飯に、温麺ときて、ちょっと頼みすぎような気がする。mayakovがいるような調子で頼んだしまったろうか。じつはテッチャンも頼んだつもりだったのだが、うまい具合に注文が通っていなかった。しかし気がつくとすべての皿を平らげている。そして、ここ数日続いていた頭痛も治っていた。
お勘定をすると、ちょいと立派な数字になっていた。まあでもいいか。特別な日なのだし。おかみさんがいつものように、大人にはガム、SOPにペロペロキャンディーをくれる。はい、オニイチャンとSOPに向けて言うのだが、SOPは気がつかないのか、外を見ている。ねえオニイチャンと繰り返してもこちらを向かない。SOPと呼ぶと初めてこちらのほうを振り返った。「まだお兄ちゃんって言われてもピンと来ないんですよ」とぼくが説明すると、「ああ、まだそうかもしれへんねえ」とたしかにそうかもしれないという顔をする。「弟やったん、妹やったん」と聞かれて、返事をしないので、オチョ、ちゃんとせつめしいへんと、と促すと、妹と答えた。
二日がかりの難産の末に、ようやく28日に生まれた彼の妹は、その直前にいきむmayakovの隣の分娩台で生まれた子供が3500グラムもあったせいか、取りあげられるやいなや、まわりじゅうからいやーちっちゃ、かわいいなあ、という声が上がった。心音低下の上に低体重らしいというということで呼び出された小児科の先生も、おおーちびっ子やなあと繰り返す。いろいろなひとが慌てて呼んだせいで、あとで聞くと、3人もやってきていたようだ。二日も粘ったわりに、分娩室に入ったらあっという間だった。しばらくして落ち着いたmayakovが最初に言ったのは、SOPのときの麻酔は効いてたわ、だった。じつはSOPの出産のさいは無痛分娩を選択していたのだが、麻酔が効かずにたいへんな目にあったと、そのときまでそう思いこんでいたのだが、「あれは麻酔効いてたんやわ。今度はホンマに死ぬかと思ったわ。」どうやら母子ともにいまのところは問題はないようだ。この時期はそれだけで、心の底からほっとする。
ともあれこうしてぼくとmayakovには娘が、SOPには妹がやってきた。ぼくは親であることには変わりはないが、SOPは立場が変わってしまった。どうやらそれにはまだ慣れないようだ。昨日、今日と父子ふたりだけで寝る生活が続いた。彼の母親は月曜には帰ってくるけれど、小さく生まれた妹の帰宅はしばらく先のことになりそうだ。すでにSOPは複雑な表情を見せるようになっている。