SOP

また頭を切って出血で休日診療の巻。

自転車を買ってもらったSOPはご機嫌で、おれはもう君たちとは違うから、という感じで、それまで一緒になっておもちゃの車に乗って遊んでいた同世代を尻目に、1〜2歳年上のお兄ちゃんたちに勝手に仲間入りしたりしているらしい。まだ足が短いので漕ぐたびにお尻を左右に振りながら、SOPちゃん偉いね〜という近所のお母さんやおばあちゃんの喝采に、得意満面の笑みを返して、まああの得意そうな顔と、笑われてもそれもまた自尊心を満足させる。そういった話をmayakovから聞くにつけ、どんな風に自転車に乗るのか見たい気持ちが募るのは、なんといわれようともの親心だったのだが、採点が終わったとたん、引っ越しや何やらで忙しく、ここしばらくは遊んでやれなかった。だから今日はようやくにSOPの自転車を見れたせいか、なんとなく、こっちもはしゃいでしまったのかもしれない。
夕方ぐらいから、公園に出て、少し肌寒いなかをきゃあきゃあ言いながら遊んでいると、近所のUちゃんがパパとやってきた。Uちゃんも自転車でSOPと遊ぶ気満々で、ヘルメットをつけての登場。自転車に飽きたSOPは暑くなったのかヘルメットを脱いでいたのだが、Uちゃんを見たとたんに、ヘルメットをかぶせろと言ってふたたび意気軒昂に。二人並んで自転車に乗って、さてどうするのかなあ、思ったら、二人ともてんでに明後日の方向に。ちょっと虚をつかれて、出遅れてしまう。まあいいか。と油断した途端、無理にUターンしようとしてバランスを崩した。それほどスピードは出ていなかったのだけれど、斜め前のほうに倒れた先には、煉瓦でできた花壇があって、ああ。

急いで駆けつけると、目の上のところがまたぱっくり割れている。3センチくらいだろうか。あああ。やっちまった。mayakovに電話して、こりゃ病院だと言う。それまでうるうるしながらも泣かずに我慢していたSOPだったが、「びょういん」という単語を聞いたとたん、「チュー、イヤ。チュー、イヤ。」と泣き出した。チューは言わずもがなだが注射のことだ。「注射しないよ、注射しないよ」といいながら家に向かう。Uちゃんと、Uちゃんパパも心配してついてきてくれている。SOPはさらに「オチョ、う〜〜、イヤ。う〜〜、イヤ」といいながらポロポロ大粒の涙をこぼす。オチョ、というのはSOPのことで、う〜〜は救急車のことだ。前に紀州でやった怪我のことを思い出したのかもしれない。血を流すSOPを抱きかかえて家に走るあいだ、こっちもそのときのことを思い出した。あのときは寝間着代わりのTシャツが真っ赤になった。
休日診療しているところを探す。そのかんもSOPは「チュー、イヤ」と言い続けている。Uちゃんも一緒に部屋に上がってきた。ねえねえレガシーのパトカーはどこ? とお気に入りのミニカーを探していた。思わず、そのブルーの箱のなかと答えると。こらっ、U! とUパパも上がってきた。そうこうしているうちに、いつも通っている病院が開いていることを知る。その電話を聞いて、車を持たないねずみ家の窮状を見かねたか、車を出しましょうとの有難い申し出。好意に甘えることに。助かった、が、ある意味Uちゃんのおかげかもしれない。

病院に行くと、幸い当日は外科の先生の当直。男の子とはいえ、こういうのは手早くやってもらうに越したことはない。救急外来には小さな子供が他にも二人。ひとりはおそらく内科関係(というか小児科だがつまり外科的ではないという意味)。少し前に来ていて受付のとき、外科の先生ですがいいですか、と念を押されていた。この病院も、しばらく前から休日の小児救急はもうできなくなっている。SOPが入院していたあのころはまだいざというときはここに来ればなんとかなったものだった。入院を繰り返したSOPの経験から、一歳未満の赤ちゃんはには、小児科の診察が必要だということはよくわかった。最初の入院のさい、当初、近所の内科・小児科という看板の医院に看てもらったのだが、彼の手に負えなくなり、この病院に回されることになった。言葉には出してそうとは言わなかったものの、事実上の処置の遅れととれる言葉を漏らした。小児科を専門にしている医者に看てもらっていればずいぶん違ったはずとあとで病院に勤める弟にアドヴァイスされた。
もうひとりは小さな赤ちゃんで、どうやら倒れて頭をうったあとに、嘔吐したようだ。わかい両親が不安そうに立っている。ここでは見ることができないので、いま先生が転送先を探していますと救急隊員が説明してた。**は断られ、○○も断られ、△△も断られました。それと小児科だけではなくおそらく脳外科的な処置が必要になるかもしれません。いま大阪市内の病院をあたっています。遠くなりますがいいですか。

そうこうしているうちに当番の医師がこの件にかかり切りになったせいだろうか、それとも交代の時間だったんだろうか、仮眠から起こされてきました、という感じの若い医者が現れて、結局SOPは彼に看てもらうことになった。最後まで「チュー、イヤ」を繰り返していたが、さすがに処置のあいだは、ただ泣いていた。Uパパは最後まで付き合ってくれた。様態が急変した場合のことを書いた紙をもらって処置室を出る。

診察を待つあいだ、Uパパが手持ちぶたさに手に取ったいかにも病院においてありそうな、健康関係のパンフレットを見つけるとそれをねだって胸に抱えていた。表紙にはイチゴの写真があった。家に帰り、イチゴ食べる? と聞くと、弱々しくうなずく。なんとなく体を動かしている方が、気が落ち着く。盗難を避けるために玄関においてある自転車を肩に担いで団地の階段を下りる。少し高めのイチゴを買ってやろう。すまんSOP。

風呂に入れずにSOPを寝かす。着替えたあと大好きなぜんまい侍の絵本をmayakov読んでもらっていた。少しのあいだ部屋を出て、ベッドに戻るともう寝入っていた。あの子はだいじょうぶだったろうか。

それにしても体力だ。